サクラ 1997年4月
朝、目覚めると雨が降っている。
雨が降っていたらあきらめようと思っていたのに、「雨の中の釣りもまたオツか?」と思わせたものは何だろう。
昨日、いつもはサラリーマンやOLの行き交うオフィス街の真ん中の公園でぼんぼりがずらっと並んでいる満開の桜の木を見た。 土曜日というせいもあり、加えての雨。ほとんど歩いている人もいない。
喫茶店の窓越しに眺める桜の木は、雨で煙り霞んだシルエットを浮かび上がらせるビル群と奇妙なコントラストを見せ、もの悲しさを感じさせると共に、 妙に自然を感じさせた。
いつも都会の中に暮らし、せいぜい触れられる自然といったら人為的に作られた公園くらいであるが、そこであっても自然を感じることができるという のは新たな驚きでもあったのだ。
今朝、雨の中の釣りを決心させたのはきっとこの驚きであったのだろう。
いつもコンクリートの岸壁、人の手で組まれた石畳の上で釣りをする私にとってまた新しい発見があるかも知れないと。
雨の中で竿を出す経験は初めてではないがあまり気の進むものではない。濡れながら竿を操るよりは・・・と思い、湾岸線(高速道路)の 下に釣り座をかまえる。周りは小雨で霞み、橋からは水が滴り落ちている。釣り人もまばらだ。
撒き餌をし、第1投をほうり込む。水面に妙に白い泡のようなものが見える。 すぐに浮子に反応が出る。すばやくあわせて魚とのやり取りを楽しむ。浮子や道糸に着いた泡のようなものが取れない。
魚をよせ、タモに収めるとタモにも泡のようなものが沢山着く。
引き上げて泡のようなものを手にとって見ると、桜の花びらである。
この釣り場のすぐ西には芦屋川、東には夙川という京阪神では桜の名所に数えられる場所がある。 その2つの川が注いで水路を通り、海に出る場所で釣りをしているのである。普通であれば川のどこがで引っかかったり、 底に沈んで朽ちてしまう花びらが、3日続いた雨で海まで流れ出てきたのだろう。
少し色は褪せていたが水面に漂う桜の花びらを愛でながら、好事である釣りを楽しむことが出来たのも、これもまた自然のおかげであった.
この場所は現在でも釣りをすることは可能であるが、護岸の公園の整備が済み、道路が駐車禁止となったためしばらく行っていない。 芦屋川はともかく、夙川は地域の開発のため桜並木をなくするような計画もあり地元の住人の反対運動が盛んである。
遠方に釣りに出かけても、海へ船で出ても自然は多く残っている場所もあるのに自然を楽しむより釣りに夢中になってしまう。
春先はまだ鳴きかたが分からずへたくそな鳴きかたをするうぐいす。
これに気がつかずに釣りに夢中になっている自分を情けなくなることがある。
もっとおおらかに自然を楽しみながら釣りをしようよ。せっかくの休日、せっかくの環境なのだから、、、
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